『作りたい女と食べたい女』を読んで百合もいけるじゃんと思ったけどどの漫画に手を出していいかわからない女性を誘導しよう記事。
でも書いてから思ったけど『つくたべ』のコアコンピタンスって「女という制約からの解放」「解放を肯定する救いの手」なのかなあと思うから多少ズレるかな。
まあ近接するし紹介したいからします。
無用なストレスに悩まされない百合、読みたくないですか?
百合におけるフェミニズムの兆候についてはおそらく次の「百合と男」記事のテーマになる予感がするので数が溜まったらきっとやります。まだ数少ないけどあるにはあるよ!!
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百合漫画選出基準
「非百合オタクの女性はこういう百合読みたくないだろうなあ」っていうのと「私の好みじゃねえ」っていうのを除外します。
その判断基準が以下。
基準を示すことで逆説的に「ラインナップ以外の百合漫画って基準を満たさない作品だらけなんだ……」と思わせてしまわないかだけが気がかりなのですが、そんなことないですとは言っておきます。
百合における女性読者は4割いってるかなあくらいだし作者も体感7割以上が女性だし、割合的にはBL好きで男が好きな男当事者よりも百合好きで女が好きな女当事者のほうが何倍も多いわけで、必然当事者意識のある作品だって輩出されます。
一口に百合好きといっても異性愛第一でついでに百合もつまみ食い勢・非恋愛いちゃ百合勢・恋愛いちゃ百合勢・二次創作勢・津々浦々の百合を探し出す勢など垣根があってざっくり意識が違うしね。
さて基準。
・思春期一過性を予感させない
百合ってとっくのとうに思春期一過性じゃないんすよね~。
もうね、百合に高校生ものが最多なのも、年若い女子高校生を消費したいオタクがいるのも事実です。
ただその高校生百合が閉塞や儚さの気配を暗示しているかといったらもはや絶滅危惧ですね。(絶滅はしてくれ)
・異性愛者相手に失恋しない
ちょうど10年前の『つぼみ』アンソロジー読み返したら異性愛者相手に失恋する読み切りがちらほらあってびっくりしました。
そんなん今全く見ないからこの10年で変わったなあと感慨深いものです。
百合ジャンル外では今も現役!
・「女同士なのに」など同性愛を否定するセリフを批判なしに入れない
めっきり見なくなったな。批判的な文脈でさえ。
・女体を性的に消費する描写・アングルを入れない
これは結構あるやつ。私は好きだがそんなんもう疲れるよねわかる。
ピチピチの服ばかり着せたりねちっこくエロいキスシーンや裸が描かれたり無意味にスカートの下から覗き込むようなアングルにしたりしないのを選びました。
・ヒロインの精神年齢が幼すぎない、純真な良い子すぎない
具体例としては『新米姉妹のふたりごはん』的な、純真がゆえに悩みや迷いのない幼すぎるキャラがいる作品はやめておきます。
あと自分の些細な嫉妬感情にものすごく動揺しちゃうくらいぴゅわな子とか。
別にそういうのありな人も多いだろうし今は私もいけるけどまあ私が百合初心者のときはそこネックだったので。
・ピュアで繊細でハートフルなふれあい/あるいは女への憧憬が前面に出てくる作品ではない
これも私があんまり好きじゃないし非百合オタクもそうかなあと勝手に思っています。これがいけたらもう百合好きになってるしね。
手が触れ合うにも3ページ使うような繊細さ……逆に巨大感情を全身使って表せる女を羨むようなむせぶ憧憬が透けて見える……みたいな作品は除外。
・共依存の陶酔に酔いしれない
閉塞を囲って外敵にむき出しの殺意をあらわにして排除する耽美と陶酔的なやつね、除外。
さてようやく10選いってみよう。
10選
1.やがて君になる(全8巻)
とりあえずなにはともあれ『やが君』、いっときましょう。恋愛感情を持たなかったふたりの恋を通して恋愛を当然のものとする恋愛至上主義を問い直します。
結局恋はしてしまうところが私は今も残念なのですが、そう言って切り捨てるのがもったいないくらいには誠実であろうとしています。
ふたりが、そしてふたりの周囲がなにをもって「恋」と言うか言わないか、結論を見届けてほしい。
2.ふたりはだいたいこんなかんじ(~3巻)
脚本家(女と付き合うのは初めて)と新人声優(レズビアン)の二人暮らし。仕事に意気込んだ途端制作がぽしゃったり道端の子どもたちとけんけんぱしたり、ただただ日常を描くのが上手いんです。
美人顔の佐久間がそのせいで枕だの愛人だのと仕事を軽んじられて「早くトシとりてぇー」とぼやく、背の低い鬼マネージャーが常にうさ耳をつけてるのはナメられないようにするため、など女性が社会で生活する上で地味にぶつかる現実を挟んだりもします。
3.となりのロボット(全1巻)
アンドロイド×女子高校生。と、アンドロイドの恋愛含む生活を見守る研究所の皆さん。ロボットにとっての恋愛感情とはなにか? どうしたら「愛」と言えるのか? を人間本位な陳腐さからかけ離れた手法でとことん追求してくれる傑作です。
……いや今回読み返したら思ったより傑作で新鮮にびっくりしたわ……。
この10選の中で1作だけ選べと言われたら迷わずこれにします。
アンドロイドが女子高校生の姿をしている点についても、スカートに精液をかけられていたところを発見して「十代の女の子にどんな機能が必要なのか考えたこともなかった」とショックを受ける研究員の言葉が重い。
4.2DK、Gペン、目覚まし時計。(全8巻)
バリキャリ×漫画家。今見たら1巻kindle unlimited対象作品でした。
互いに寄りかかりあって同居しているふたりが8巻かけて徐々に恋をしていく丁寧さ。
会社の同僚や漫画仲間など周りのキャラも魅力的で、それぞれのお仕事トラブルを乗り越えるエピソードも熱い。
5.夢の端々(全2巻)
学生時代に心中未遂事件を起こしたふたりの女、その後70年の記録漫画です。戦後から令和まで、というキャッチコピー。女性誌発の百合は『危険な二人』『オハナホロホロ』『かけおちガール』『ふたりぐらし』等子を持った女が男とつがわず女と暮らしていくパターンが本流ですが、本作は全く別の流れにあり、「それができなかった女」の話です。
儚さも一過性も美化できない。できるはずがない。
ちょっとそれ以上のことは言いたくないです……。
6.その日に残るかけらのために(全1話)
無料公開の読み切りなのでまずはこれ読んでおこう?
百合の現在2021が一目でわかる傑作です。
女という制約に縛られた、上記で言う「それができなかった」老女の「かけら」の想いと、その孫世代の選択の対比がこのたった1話で鮮やかに描き出されます。
7.楽園の条件(全1巻)
森島明子作品は絶対入れたかった。はずせなかった。百合といえば女子校ばかりだったころからずっと大人百合を世に送り出しつづけている偉大な種まき職人。(幾原邦彦が信頼できるのは『ユリ熊嵐』のキャラデザ担当に森島明子を引っ張ってくるところ)
ぴゅわな花園♡思春期特有のうんちゃら♡な百合幻想を爽やかにぶっ壊すけど露悪はしません。
「女ふたりが共にありつづけること」の困難を一見軽々飛び越えますが、底から漂ってくる風味はその困難をじっくり濾過したまろやかさ。
短編集なので一編にアラサー×ピチピチはたちというちょっぴりエイジズム的な対比はあるけど。
8.彼女とカメラと彼女の季節(全5巻)
男と女と女の全員片想い三角関係。私が男を踏み台にして捨てる百合が好きなので。(なぜなら百合ジャンル外では今も百合が異性愛の踏み台だったりガワが女で中身男の異性愛ものに「百合」と銘打たれて百合を簒奪されたり最終的に男が乱入するにもかかわらず「百合」を冠してたり、ていうか百合姫とか百合アンソロでさえ時折男が乱入してきたりするから。百合にはさまりたい男は実際百合作品にそういうコメントを残すし百合は何度となく男に取り込まれ無化され軽んじられるからです)
本作は捨てるまではいかないんですが、どんなに良い奴でそばにいてくれる等身大の男の子でも「好きになってしまった女」には勝てないことを延々やってて良い。
主人公をいじめる女を「ブス」と言ったりはします。
9.付き合ってあげてもいいかな(~7巻)
現代レズビアンの恋愛を取りまく微妙さを描いたら天下一品。周囲にカジュアルに受け入れられるし、でもマイクロアグレッションは食らうし、冴子は差別された過去を持つし、差別されてきた完には妬まれるし、親には言えないし、などなど。
自意識とかディスコミュニケーションとかセックスとかを描こうとしたらじっとりしがちなのにこの作品は「自分のセックスを眺めるもう一人の自分がおり気持ちよがってる自分がキモい」など圧倒的に現実味が強い。
でも作者は「レズ(※蔑称)とか同性愛とかって言葉は彼女たちの恋愛をフツーじゃないものにしてしまうレッテル貼り」と公言しており、「レズビアンの人物をレズビアンとして描かないことは、現実にいる女性同性愛者の存在を透明化することに繋がるのではないか」と言うゆざきさかおみのほうが圧倒的に誠実なのでご注意を。
作中でレズとか同性愛とかの単語を使わないの、実は連載開始時からずっと意図してやってましたが特に言うタイミングなかったのでこれを機に言いますね…😌理由は、彼女たちを絶対に特別な存在にしたくなかったからです。 https://t.co/bNYg3U2P0l
— たみふる👯♀️7巻9/9発売! (@_tmfly_) 2020年8月1日
私が個人的にレッテル貼りが好きじゃないというのもあるけど、等身大のフツーの恋愛のその先に性別だとかそういうのがたまたま絡んでくるだけ、という形にしたいな〜〜という願望が表れています✌️
— たみふる👯♀️7巻9/9発売! (@_tmfly_) 2020年8月1日
10.オクターヴ(全6巻)
私がいちばん大好きな百合です。好きすぎてこれが面白いのか自信がない。
人に見られたくてたまらないのに鳴かず飛ばずで空虚な元アイドル雪乃がナンパ女節子(作曲家)に依存するところから始まります。
イケてる美女だった節子さんが次第にぐずぐずさをさらけだしていくとか、ブレブレな自我を三歩進んで二歩下がる進度で立て直す雪乃とか、唯一の親友の差別と無神経さとか、金も時間も服も頼れる実家も後もない被搾取労働者の生活感とか全部「人生」で、その中のでかめな中心を占める恋愛の存在感。
あとセックスはちょいちょいあるが女体がモデル体型でもグラビア体型でもなく「そのへんによくいる凡人」の形をしています。
以上。
続きはもう少し私の趣味寄り10選。
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