青い月のためいき

百合とかBLとか非異性愛とかジェンダーとか社会を考えるオタク

女が好きな女が子ども時代に救われた『天然はちみつ寮。』/ほか現在の少女漫画と同性愛について

 私自身のセクシュアリティについては結局のところ既存の言葉では表しがたく、生き方がクィアでもないので「女が好きな女」としか言いようがない。

 まあそんな前提はさておき、あなたは何の作品に救われましたか。
 私はこのブログで愛を語ってきたように、少女漫画です。

 いちばん大きな影響を受けたのは日渡早紀ぼくの地球を守って』。
 80年代~90年代の作品なりに同性愛差別描写はきついのだが、それでも男の子を好きになった男の子が、混乱しながらも最終的には自分の恋心を労わるように受け入れていたのが私には救いだった。
 この作品を読んでから女の子に初恋をしたので、自分の感情を否定しなくていいと思うことができたのだ。
 あとうっすら覚えているのは富所和子『ライバルはキュートBoy』。女装男子もの。
 同性愛? イマドキふつーだよ、だったかイマドキ差別してるの? だったか、そんな台詞があって、それを何度も読み返した記憶がある。

 そして今回扱いたいのは表題。
 織田綺『天然はちみつ寮。』(2002年~2003年)
 



 これも女装男子もので、脇キャラにゲイ、バイ、ヘテロだがゲイの好意を受け入れられなくて葛藤してる子、ヘテロだがアイデンティティゆらぎ中の子たちがそれぞれにいて、なおかつ女装男子キャラも非ヘテロかもしれないと示唆される。
 主軸はその女装男子と主人公の異性愛なのだが、脇でゲイ・万葉とヘテロ・らんらんの関係が前向きな形で描かれているのである。

『天然はちみつ寮。』5巻/織田綺p31

万葉「君が僕と同じ想いを持たないことはわかってた でも僕も君に合わせて友達になることもできない」
万葉「あきらめようと思ったよ
   でも もしも どんな形でも君の世界に僕がいるのなら
   僕と君の2人だけの新しい世界関係を創れないかな
   友達にはなれないけど恋人じゃなくてもいい ただ一緒にいたいんだ」
(5巻 pp30-31)

 このエピソードが描かれたあとはまた脇キャラに引っ込むが、彼らがハグしたり手をつないだりらんらんからノロケたり、互いに好意をもち彼らなりの関係を模索していくようすがちらちらと描写されていく。

 本作『天然はちみつ寮。』が、2000年代の漫画のなかで特異だった点は結構ある。

  • ゲイの好意が特に周囲に隠さず引かれず受け入れられている。
  • レギュラーの半数が非ヘテロキャラと示唆される(一定の強度で描かれるのはらんらんと万葉のみとはいえ)
  • 同性愛が必要以上に特殊なものとしては描かれず、異性愛と同じ土俵に上げられ、同列に語られる
  • "同性愛の葛藤"として描写されるのが、男同士なのにヘンだよね……という種類のものではなく、好きの性質が異なることへの葛藤
  • その葛藤のまま悲恋で終わるわけではなく、友愛と恋愛を含んで前向きに一緒にいることを選択する

などなどである。

 もちろん完璧な描写ばかりではないし、同性愛描写に限らずところどころ「うーん……」「いやあこれはアカンよ」と思ってしまう箇所もあるのだが、それを差し引いても同時代の他作品を考えるとだいぶ冴えた部類の作品だったと思う。


 また、LGBTQの教科書でもないのに直球で「同性愛はあたりまえで、セクシュアリティのひとつで、差別は存在するがそのいわれはない」と丁寧に知識を紹介するLGBチュートリアル描写が本作の特筆すべき美点である。

寧々「どっちも…って人もいるの…?」
万葉「そりゃいるよ そーいうのはバイという ちなみに僕はゲイと言って同性専門さ!」
(2巻p35)

ロイド「異性愛ほど受け入れやすくはないしな 言わぬほうが楽だろう」
寧々「んー…そーか…」
未月「だからって「間違ってる」とは思わないでくださいね 一般的ではないからといって避難原文ママされる必要はどこにもありません
 自分の知る常識で測れないからといって おかしいと決めつけるのは愚かなことです」
(2巻pp101-102)

 私は「ストレート」という用語をこの漫画で覚えた。(今は使わないけど)
 ややもすると「バイ」「ゲイ」「異性愛」もそうだったかもしれない。

 「異性愛」って、異性愛しか出てこない作品には登場しない。
 こういう、異性愛だけが絶対じゃないんですよと相対化してくれる価値観は、子ども時代に他で触れることはできなかったし、だからこそチュートリアルが本当に必要だった。

 同世代のセクマイを見渡すと、結構な割合で自己否定を通ってきたりそもそも自分の性質を表す知識にたどり着いてこなかったりする。
 その中で私は自分のセクシュアリティを一度も否定したことがない。自分の感情が誤っていて禁ずべきものだと思ったことがない。

 それは子ども時代『天然はちみつ寮。』に出会っていたからなのだな、と今回再読して納得した。
 ゲイの万葉が「俺は自分を恥じたことない」とナチュラルに断言していたり、なにより悲恋片思いでないところ励まされたりしたのだから。

 まあそれでも社会との摩擦はいろいろ! いろいろあったのですが!
 毒気にやられまくってたときにこの記事↓書いて自己治癒への道を模索をしたのだった。
koorusuna.hatenablog.jp

 ちなみにネットで検索しても『天然はちみつ寮。』にちゃんと言及しているのは大手ブログさんくらいだった。
俺の嫁ちゃん、元男子。【LGBTQ 4コマ ブログ】 : 【憧れのあの人は女装男子?】天然はちみつ寮。【LGBTQ/漫画】


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 ところで最近りぼんの名作ライブラリが話題になった。
 名作ライブラリ掲載期間は終わってしまったのだが女の子と女の子の恋愛(及びそれに似た感情)特集である。

youtu.be
 木村恭子『きみのことがだいすき』はすごくすごかった。
 主人公は幼なじみとキスをして好きになってしまうが、最終的に幼なじみも主人公を好きとわかって結ばれる。
 異性愛規範への違和感、セクシュアルマイノリティコミュニティへのシームレスな接続と知識拡張、同性婚ができないことへの疑義、その社会性と政治性を意識しつつもきみを選び取るスペシャルハッピーエンド。
 こういう話が昔読めていたら絶対に救いだったな。

 ちなみに私はそこそこ長くりぼんを読んでいたので名作ライブラリに1話掲載のあった椎名あゆみあなたとスキャンダル(1993年~1995年)えばんふみ『ブルーフレンド』(2010年~2011年)は通っている。(現在は名作ライブラリ掲載終了)
 『あなたとスキャンダル』のセクマイ描写についてはこちらの方のブログ↓に詳しいが、幼い私の場合は「結局同性愛は成就しない、メインは異性愛になる」と脳に刻みつけられた。
椎名あゆみ『あなたとスキャンダル』: おとなりの腐った百合日記
 『ブルーフレンド』は子どもにどう受け入れられただろう、恋愛とは思われなかったかもしれないね。

2023年の『りぼん』百合漫画振り返りまとめ: おとなりの腐った百合日記
 そしてこのブログを読んで、りぼん2023年増刊号もちもちとりぼん2024年9月号を購入した。

りぼんスペシャル もちもち 夏の大増刊号 りぼん 2023年 9月号増刊

 小学生マンガ大賞で、同性愛を描いた作品が賞を取っている。
 親友を好きだと周囲にバレて中傷を浴びるが、親友が啖呵を切って助けてくれる話。

 「よくある」話ではあった。
 そこで思ったのは、フィクションは今の子どもに、同性愛の肯定は教えてあげられたんだなという感慨と、スペシャルハッピーエンドを見せてはあげられなかったなというほろりとしたかなしみ。
(そもそもスペシャルハッピーエンドは小学生マンガ大賞応募作にはあんま向かないとしても)
 同年代の子がこれ書いてたらうれしいセクマイの子は必ずいると思う。

りぼん2024年9月号

 2024年8月現在発売中のりぼん本誌。
 黒崎みのり『初✕婚』で、同性カップルが登場する。
 女の子が女の子へプロポーズする、幸せなシーンが描かれた。描かれたのだ!

 本当に本当にここはうれしい、私が『天然はちみつ寮。』に救われたように、今の小さな女の子たちもこれに励まされてほしい。あなたの感情はけして間違いではない。

 ……が、この作品はアプリでも売れており大人読者も一定数存在すると見て、16巻のネタバレになるのでこれ以上のことはぼかすが、なんとも言えない微妙な気持ちにはなった。
 いや、うれしいんだ、いろいろ含めて、結論も。うーん。
 まあ、これについて書くならまたいつか。

 従来の同性愛の描き方から確実に変化はしている。
 従来の描き方――『天然はちみつ寮。』もその類型のひとつである。
 二者関係の中でセクシュアリティが「壁」となる、というのがそれだ。
 そういう描写は今や手垢がついているから、あまりやれない。

 木村恭子『きみのことがだいすき』や黒崎みのり『初✕婚』では、「日本では同性婚ができない」という事実と、同性愛を取り巻く社会、政治的位置づけが意識して描かれている。
 これは従来の描写にはなかったものだ。
 この二作では少女たちの恋愛関係そのものには壁が存在しない。*1

 二者間で好きになってごめんね……とかじゃなくて、社会の中で同性愛が困難な状況に置かれていること、が取り上げられる。
 これは世界状況の変革と社会運動の成果ではないだろうか。
 少なくとも、二作が同性間で結婚できないことをネガティブな意味で言及しているのは、2019年からの同性婚訴訟(Marriage for All Japan)や、2015年から始まった自治体のパートナーシップ制度の普及が遠因にあるだろう。
 私は、子ども時代、テレビやラジオから「同性愛」といったワードが聞こえてくるといつも緊張していた。隠すべきものが露呈してしまいそうな、バレやしないかという緊張。
 それが今はもう上記のようなニュースが不意を突いて聞こえてくることに体が慣れてしまった。LGBTという言葉が人口に膾炙したのは2015年だ。

 今回の記事は世代を意識したというか、私個人があんまり同世代で「子どもの頃なんの作品で救われた?」みたいな話をしないから書いてみたが、現代の状況下にいる子どもたちは何を見て何を思って育つだろう。
 願わくば希望を胸に抱いてほしいが……。

 あと、現在のりぼん本誌で女装男子もの(柚原瑞香『となりはふつうのニジカ(ちゃん)』)と男装女子もの(瀬川あや『僕のこと推してよ』)が同時に連載しており、少女漫画とジェンダー攪乱の近さが窺われた。
 そういえば少女漫画っていわゆるクロスドレッサーとは近しいけどトランスジェンダーってあんまり見かけないな。
 ちょっと違うけど異色作『放課後保健室』とか、あとは少女漫画の文脈を負ってるという意味では現在連載中の『スキップとローファー』くらいしかぱっと浮かばんな~。
 なんかあるかね。

*1:これは最近の少女漫画?ラブコメ全般?の主流である、浮気なし強固一対ラブラブカップルの流れもあってのことだろうか。まあ長編の主役キャラじゃないこともあるかも