青い月のためいき

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『蒼穹のファフナーEXODUS』イマジナリーライン演出

本日皆城総士の誕生日だーおめでとー!
生誕祭も近いし久々にファフナー考察やります。
今のところこれ以上のネタはない。細かい話はまだちょこちょこあるけど。



蒼穹のファフナーEXODUS』ネタバレあり。

さてさて。
舞台の上手下手を利用した決まりごとがつくる演出、イマジナリーラインというのがあります。
人物・物体が画面左方向(下手側)に向かえばざっくり肯定の意、画面右方向(上手側)に向かえばざっくり否定の意、という感じです。
説明が面倒なので詳しくは述べません! 「イマジナリーライン 富野由悠季」あたりでぐぐってください。



これに完全にのっとっている作品は多いわけではありませんが、ファフナー(EXODUS)はこれを厳密なまでに意識・利用してコンテを切っています。
まあ所々無視している箇所もありますが、本記事はそれに従って『蒼穹のファフナーEXODUS』の考察をしていきたいと思います。

ファフナーにおいては、大まかに以下のように演出されています。


フェストゥムは下手から攻撃してくる

フェストゥムは基本的に(ほぼ常に)画面下手に配置されます。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』12話)

竜宮島の戦士たちが正に向かって進む。
演出のお約束からいえば「最初は敵の強大さを見せつけるために上手から現れる」ということも一応やろうと思えばやれるはずですが、そういうことは全くしません。
「下手が敵」であると、コンテ以前に共有されてる決まりごとなのでしょう。

よって上手側から現れたアザゼル型フローター(来主操のミールボレアリオス)が「敵」であるはずがないということになります。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』21話)


★真矢VSダスティン

最初に真矢が右上からダスティンを攻撃します。他のアルゴス小隊パイロットをあっというまに解体したあとの真矢。
このコクピット内の真矢、ダスティン、最後に引きの機体二機の3カットで、ノリに乗った真矢の優位性がたっぷりと強烈に印象づけられます。
ここが大事です。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』23話)

しかしその後すぐ立ち位置が反転します。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』23話)

攻撃を受ける真矢は左下にいて不利。逆行の動きを強いられやられてしまうのではないかという緊張感が出ます。


しかし真矢はその後すぐレージングカッターで自分の肩を切り落とし難を逃れ、左下側からコクピットをためらいもせずぶっ刺します。
爽快。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』23話)

基本的に戦闘の際「敵」と「味方」の方向性をほぼ固定しているのがここで生きてきます。
くるくると立ち位置が反転するふたり、下手側からの真矢のコクピット刺殺という惨い絵面の決着、これではどちらが「敵」かという区別がわからなくなります。
真矢の人殺しが絶対的に正しいわけではない、ダスティンが絶対的な敵ではないとここで示しているのです。


★竜宮島と派遣組の移動方向

竜宮島は常に上手から下手に向かって正方向に移動しています。
一騎と総士もCCTSに乗って島を出発する際左上に向かって飛び立ちます。希望の未来へ行かんとするということです。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』OP『イグジスト』)

逆にシュリーナガルからEXODUSしたナレインたちと島外派遣組は負方向。
「暗い荒野」へ進む彼らの厳しい旅路が思われます。
10話ラストでは「希望」を求めて旅を始めますが→に向かうのでその先の修羅を暗示していると言えるでしょう。
視聴者も「希望」だけで終わるはずがないとわかっているので一抹の不安を感じ取れるようになっています。

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こうして僕らは滅びの町から旅立った……新天地へ。希望の代償も知らず。
進みゆく者たちを守れると信じて、何もかも犠牲にする旅が……始まった

(『蒼穹のファフナーEXODUS』10話)

そしてこそ、派遣組→と迎えにいった←竜宮島の合流がぴたりと自然に描かれるし、負方向に向かい続けた派遣組の疲弊と正方向で戦い続けた竜宮島組の頼もしさがわかるのです。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』22話)

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』22話)


存在と無の力、無の力のコントロール

マークザインは基本的に上手から下手へ正方向に向かい、マークニヒトは基本的に下手から上手へ向かって敵を攻撃します。
←存在方向、→無方向というわけです。ふたつでひとつの力。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』9話)

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』9話)

ザインが上昇的でニヒトが制圧的なのも、存在と無というワードでまとめれば理解に足ります。
ザインの激情の闘志が上昇志向に、ニヒトの獰猛な支配欲が制圧志向に繋がるのでしょう。

特にニヒトはその無の力をどう駆使すべきか、総士によって持て余されます。
初陣9話では徹底して→方向を向いています。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』9話)

ここのぐるっと回転して見せるカットなんか、カメラが正円を描くとイマジナリーラインが崩れて無が反転して←方向を向いてしまうのでニヒトのスタビライザーの隙間に入り込むことでそれをぎりぎり阻止しています。
好き。

そして10話ではアザゼル型と対峙。
そこでニヒトは最後にザインと同化して決めの一手を打ち込むことで初めて正方向を獲得します。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』10話)

すなわち一騎と息を合わせることで総士はようやく力のコントロールを覚えられた、と見ることができるようになるということです。
10話以降ニヒトは方向に制約を受けず縦横無尽に戦えるようになります。
他のファフナーパイロットが基本的に←方向縛りで敵と戦うなか、ひとり総士だけが正当な力とその→方向の無の力を自由に振るっているのです。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』23話)

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』23話)

ザインは25話ラストで初めて→方向を獲得しますがこれは最終話手前でレゾンの手ごわさ、その強大な敵に立ち向かう主人公たち、という王道の熱くなる構図を採用したためと思われます。


★14話、15話の画面構成がめちゃくちゃ気持ちいい

以上を踏まえると、14話、15話の画面構成はストーリーと演出がぴったりと噛み合って気持ちいいことになっています。

図式にするとこう。
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これらをどう意味づけできるか順々に見ていきましょう。

(※以下自分で読んでてめちゃくちゃわかりづらいので後日補完する……かもしれません)


下手から上手へ→方向にEXODUSしつづける一行。
下手後ろから攻撃してくるアザゼル型。

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「私たちが死んでも希望は消えんぞ、フェストゥムうう!」
(『蒼穹のファフナーEXODUS』14話)

民間人を乗せたバスは→方向へ「逃げる」絵が印象づけられ、パイロットは左上を見上げて叫ぶことでその未来を向く希望の力強さがわかります。
そしてそれが上から踏みにじられることでアビエイターの冷酷さ、絶望が浮き彫りになります。


14話アバンではダスティンがカマルを殺すことで、「辿り着く先にあるのは支援ではない」と示されました。
「暗い荒野」へ→方向に進みつづける一行。

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「カマル司令官なら必ず救援部隊を送ってくれる」
(『蒼穹のファフナーEXODUS』14話)

待っているものを考えると不穏を感じざるをえない画になります。

そしてラストの広登とダスティンです。
→方向に進みつづけた広登が見た先は、通常左上方向に向かってあるべき「希望」ではありませんでした。
そして右上から撃ち抜かれる。抗いようない弾圧です。
広登は左下で攻撃の受け身となります。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』14話)

さて上手から現れた「交戦規定アルファ」を発令した人類軍。
そのまま威圧的に←方向へ攻撃してきます。
フェストゥムは→方向から攻撃してくるので、間に挟まれた一行は混乱必至で退却します。
そして民間人を襲おうとする爆撃機も←方向へゆくのです。
だから異変に気づいた真矢がそれを追ったとき、ジーベンと爆撃機はちょうど同じ方向を向くことになります。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』15話)

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』15話)

真矢が「敵」と認定したわけではないので対立しないのです。
「敵」ではないままに撃ってしまうことが彼女の悲劇となります。


そして一騎と総士アザゼル型に対抗するため別行動。
→方向を行くナレインたちへの敵の攻撃を阻み彼らを守る形を見せたいので、そうするとアビエイターが現れるのはきちんと下手側になるのです。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』15話)

そしてこのときニヒトは←方向でアビエイターにワームスフィアを一発ぶつけます。
10話以来の戦闘シーンなので、ニヒトがすべてを無に帰す力だけでなくなったということになります。

総士は交戦規定アルファを関知し場を離れ、人と対立することになります。
牽制するため、ニヒトは←方向→方向構わず攻撃します。
アルゴス小隊は上手から来ているので、ニヒトは飛んでいる←方向を向いた機体に対しては後ろを取り脅し、地上の機体に対しては左上から右下へと無の力を見せつけます。
こうしてニヒトの制圧が印象づけられることになるのです。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』15話)


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こうして14話、15話はこれだけある構図をきちんとストーリー的方向性に沿った上でそれぞれ映像演出論を押さえて演出効果を発揮しているのでした。


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★疑問

しかしどうしてもわからないところがひとつあります。
ホライズンEDなんなの?

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』ED『ホライズン』)

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』ED)

なんで一騎が上手上方向向いて総士が下手下方向向いてるんだろう、途中は逆転するし、なんで4人は下手から上手に向かって歩くんだろう……。
視線方向もイマジナリーラインをつくるので、ザインが下手側に立ち上手から正面を向いたカットとかも意味深。

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(『蒼穹のファフナーEXODUS』ED『ホライズン』)

さすがにEDという顔で総監督演出というからには絶対意味があるんだろうけど全くわからない……。
ぼちぼち考えてみます。