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青い月のためいき

少女漫画とかアニメとかセクシャリティとかの考察・分析。

『ゼーガペイン』に心理描写や人間ドラマはないのか?

アニメ ゼーガペイン

ADPいろいろと最高でしたね……。大怪我して帰ってきました。
ADP見る前に書き上げたかったけど時間がなかった。
そんなわけでADPのネタバレはありません。TV版におけるゼーガの考察です。……最後にちょっと白字でネタバレするのでそこだけ注意。
ADPも私の興味するところでネタになりそうなものはあるから今年中にはADPネタで投稿するかも。



最近TV版『ゼーガペイン』を見たという友人の友人が、ある日こんなことを言っていたらしいと耳にした。

ゼーガペインには心理描写がない。人間ドラマがない」

それを聞いた途端、私の頭は「?????」でいっぱいになった。
この心理描写だらけの作品でいったいなにを言ってるんだ?????
恐らくゼーガのファンで「心理描写も人間ドラマもない」と思っている人はいないでしょう。
私が思わず一本ブログ記事を書くことになるほど驚いた理由も、ゼーガが表面的なSF設定と物語展開だけを羅列してドラマをおろそかにしている作品ならば絶対に私はファンになっていないと確信してるから。

まずひとつ発言者の情報として、「婉曲表現を読解するのが不得意」というのが与えられた。
だから読み取れないんだなって納得するのは簡単だけど、あんなにもモノローグが散りばめられた、つまり婉曲表現の挟まる余地のない心理描写を読み取れないってことが果たしてあるのか??
発言者もどうやらオタクとのこと。物語の読み方がそもそもわかっていないということはないはず。
ではその人の感想と私の見ている世界の矛盾、これはどうやって説明できようか?


疑問を探るべく、TV版を改めて見返しました。
そしてやっと、どちらの意見も矛盾なく説明できる答えが見つかりました。




結論。
私は「心理描写」と「人間ドラマ」を同じ階層で捉えていてかつ「モノローグ」を「心理描写」として重視していたのに対し、その人は「人間ドラマ」に重きを置いていた。
しかしゼーガの「人間ドラマ」に対応する心理描写は婉曲表現ばかりだったので、その人はそれを読み取ることができなかった。



まず私は「心理描写」について、「俺たちは生きてると言えんのか?」の執拗な問いかけによりはっきり明示されていたじゃないか! と思っていたので、「ない」と言われるのは不思議でならなかったのです。
その一方で、確かに「人間関係描写」のほうでの明示は少なかったかなと。暗示が飛び飛び点在するばかりなので線で結ぶには能動的に読み取る姿勢が必要だなと、見ていて思いました。
しかしながら暗示自体はかなり多い上に時系列に沿ってキャラたちの心理は変化し複雑に呼応しあうので、私は明示される「モノローグ」のほうと合わせて「心理描写だらけ」と言ったんですよね。

ここで重要なことは、もし暗示だけだったら、「心理描写がない」という意見に疑問を感じなかっただろうなってこと。
あーまあ読み取りづらいよなって思うだけだった。
ゼーガは明示と婉曲が二重に連なっていることでドラマの深みを増している作品なんですよね。


こんなところが真相じゃないかしら、と。





その上で反論するならば。本当はこっちが書きたかったことです……。
するならば、ゼーガペインは確実に人間ドラマです。
何故なら「俺たちは生きていると言えるのか?」のSFテーマを下支えするのに人間ドラマは必要不可欠だから。
明示される内面描写に奥行きを与えることが暗示の果たす役割なので、暗示だけ提示されても読み取りづらいのは当たり前のこと。


例えばシマとキョウの関係について。

シマ「キョウ。君には色々と辛い役目を背負わせたな。すまなかった」
キョウ「よせよ。今生の別れみてえで縁起わりぃ」
シマ「ふっ……。私が目的のために手段を選ばないことはよく知っているだろう」
キョウ「ふざけんじゃねえ! ひとりでかっこつけたままあの世になんかいかせねえからな! 勝手に死んだら、パンツ一丁にして顔にラクガキしてやる!」
シマ「ふふん……君とそんな学園生活も送ってみたかったな」

(『ゼーガペイン』23話)

これが明示される「人間ドラマ」の一端。
しかしここまでに描写されたふたりの関係性って、ほぼすべて、婉曲表現で構成されてるんですよ。
だから「なんでいきなりしめっぽい? ちょっと良い話エピソード入れてみたくなった? 急に?」と思っても、致し方ない。
そこまでではなくとも、ここのシマの真意を初見ですべて読み取るのはまず無理でしょう。
すげーわかりにくいよね確かにね! なぜならシマは合理優先で感情を殺す人だから……。



この会話の根底には以下様々複雑な感情とドラマが埋まっているわけです。

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シマ「仲間をロストする可能性を心配している余裕は、僕にもないんだよ、ミナト」
ミナト「……っ」

(『ゼーガペイン』3話)

ロストする可能性を危惧しつつ、まだ不安定なキョウを出撃させなければならないシマの苦悩。

シマ「また繰り返すぞ。彼は自爆寸前だ」
シズノ「足掻いているのよ。必死に。現実と虚構の狭間で。消えたいなんて、本気で思ってなんかいない」

(『ゼーガペイン』8話)

キョウが、以前のように一人溜め込んでまた自爆してしまうことをしきりに気にしていたシマ。

キョウ「覚醒しただけじゃセレブラントにはなんねえってことだよな。成熟する確率も低いと」
ルーシェン「そうだ。君のガールフレンドがなると決まったわけではない」
キョウ「えへへっ」
ルーシェン「ふっ……」
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ルーシェン「いや……笑うところではないな」

(『ゼーガペイン』12話)

カミナギセレブラントになる可能性は非常に高いのに、いたずらにキョウに期待させるルーシェンを視線でたしなめるシマ。
またひとりでショックを受けて抱えこむかもしれないでしょうと。

シマ「キョウ」
キョウ「あ?」
シマ「カミナギリョーコを正式に我がセレブラムの一員として迎えようと思っている」
キョウ「俺に同意を求めてるわけじゃあねーんだろ」
シマ「そうだ」

(中略)
シマ「それで君には、彼女の訓練を手伝ってもらいたい」
キョウ「!」
シマ「本艦のガンナーで彼女と面識があるのは君だけだ。それに舞浜でのことを考えれば他の者より適任だろう」
キョウ「まあな。けどよ」
ミナト「彼女を戦いに巻き込みたくない? でもここにいる誰もが好きで戦っているわけじゃ」
キョウ「んなの、言われなくたってわかってるぜ!」
シマ「では、決まりだな」

(『ゼーガペイン』13話)

キョウの意思にかかわらずカミナギを登用するのは確定。なのにキョウに報告したのはキョウへの気遣いから。
カミナギの覚醒を嫌がっていたキョウが、また人知れずショックを受けてひとり抱え込むことを恐れたシマは、カミナギと一緒に戦わせることで、少しでも無力感を軽減させようとする。
「嫌でも戦わなくてはならない」ということをキョウがきちんと受け入れているとわかったから、「では、決まりだな」と言った。

シズノ「どう? 自分の口で説明した気分は。少しは私の気持ちがわかったでしょ」

(『ゼーガペイン』16話)

シズノの批難口調。
いつもシズノに説明させてシマは逃げていた。
シマは自分の口から説明したくないほどのわだかまりがキョウにあったし、恐らく前バージョンのキョウが潰れた責任を感じてもいたこともわかる。

クリス「戦場でしか会えない恋人……。彼女はこれからどう生きる?」
シズノ「キョウのパートナーとして成長していくしかないわ」
ルーシェン「そこまでして復活させたのは、戦いに必要だからか、司令!」
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ルーシェン「……!」

(『ゼーガペイン』16話)

パイロットは常に不足している。アルティールの中でしか命を保てなくても、カミナギを復活させなければならない。
そのせいでキョウとカミナギに過酷な運命を背負わせてしまったシマ。その意味を充分わかっているからこそ、シマは仲間の批難から逃げる。

シズノ「舞浜サーバーのデータを移し替えたのは司令と私、……それに」
ミナト「私が知る以前の彼。リブート前のソゴルキョウ……」

(『ゼーガペイン』20話)

味方も騙す舞浜サーバー月移動計画、シマとシズノ以外に協力したのはキョウ一人。
それくらい前バージョンのキョウはシマに信頼されてたし、責任を負っていた。

カミナギ「全部背負う必要ないんだよ!? つらいことや悲しいこと……。でないとキョウちゃん潰れちゃう!」
キョウ「カミナギ……」
キョウ「……前の俺はそうだったらしい。最近考えるんだ。俺の記憶が戻るの、みんな妙に気にしてたのは、そのせいだって」
カミナギ「私だって色々考えるよ……」
キョウ「俺、一緒に考えちゃだめかな? お前と一緒に」
カミナギ「だからそんなことしたらキョウちゃん潰れちゃうんだってば! ……私は重たいよ……重たすぎるよ……」

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(場面転換)

シマ「決めたよイェル。信じる道を、僕は進む」
シズノ「まさか。話すのすべてを?」
シマ「思いが、ひとつになるのなら」

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(『ゼーガペイン』21話)

自分の出自をかたくなに隠そうとしていたシマが、話すことを決意したのはキョウとカミナギの会話を見たから。(3カットにわたる感情表現!)
隠すことによってオケアノスがばらばらになっていることを実感した。会話は聞こえてないかもしれないけど、キョウとカミナギの間に漂ってしまったシリアスな感情も、キョウにまた重たいものを背負わせてしまったことにも、責任を感じた。
その決意が、「すべてを話して意志統一を図る」になった。




ここで23話の台詞をもう一度見てみます。

シマ「キョウ。君には色々と辛い役目を背負わせたな。すまなかった」
キョウ「よせよ。今生の別れみてえで縁起わりぃ」
シマ「ふっ……。私が目的のために手段を選ばないことはよく知っているだろう」
キョウ「ふざけんじゃねえ! ひとりでかっこつけたままあの世になんかいかせねえからな! 勝手に死んだら、パンツ一丁にして顔にラクガキしてやる!」
シマ「ふふん……君とそんな学園生活も送ってみたかったな」

(『ゼーガペイン』23話)

最期を悟って初めてシマはキョウに謝罪する。ずるい! 散々シマの悲願の犠牲を強いてきて、今さら!
前のように自滅しないかずっと気にしていたシマが「色々と辛い役目を背負わせた」と言うのだから、リブート前のことも含めての謝罪だとわかる。
前のキョウには謝ることもできなかったから……。重い、ここの謝罪は重い。
そしてキョウはちゃんとシマの心境をわかってる。(「俺の記憶が戻るのみんな妙に気にして~」)
わかってるからその重さを受け止めず「縁起わりい」と突っぱねた。
そしてシマは、キョウがシマの気遣いをすべて理解していて信頼してくれているとわかったからこそ、「自分の出自からなにからすべてを話す」決意をしたとも考えられる。

自嘲のように「目的のために手段を選ばないことはよく知ってるだろう」と言ったのは、その目的の意図も、どれだけシマ自身が背負ってるのかも、キョウがわかってくれてるからこぼすことができた弱音かもしれない……。
そういう、"頭のいい"キョウだからこそ、平和な学園生活も楽しかっただろうにと思えたのかもしれない……。


っていうね!
最後は私の解釈多めだけれど。
(いや、まあ、本当に婉曲表現なので、全体的に私の解釈なんだけど、概ねの方向性はこんな感じで大丈夫なはず)


そしてこうしたシマとキョウの関係が、信頼と憧れに結び付く。
「信じる道を進め」と、それを指針にセレブラムをまとめあげ人類復活の悲願を語り、そのためなら手段を選ばないシマと、素直でありながら利己的でなく、すべてを理解してなお人類復活を望み「今を生きる」キョウの願望が重なる。
もしもキョウが根暗で、ひねくれで、頭が悪くて、騙されやすかったら。シマはキョウになにも委ねられず、「生きるとはなにか」を考えさせることもできなかっただろう。

そうしてこの「俺たちは生きていると言えんのか?」のSFテーマが、例えばシマとキョウの両面から描き出される、ってわけです。



シマの精一杯の想いが23話の明示された会話に詰まっているなんて、これまでの婉曲表現を読み取っていかないことには理解しようがない。だからそんなに響かない。

他にもゼーガペインはありとあらゆる場所でこれでもかと婉曲表現を多用するんですよね……。
この作品を好ましいと思えるかどうかのひとつの境界はここなんだなと、今回実感しました。

心理描写も人間ドラマも、ゼーガペインにはある。ただそれを理解する能力と労力は結構な高水準で必要なんですねっていうのが、結論。
読み取れなくても仕方ない。当然に、仕方ないです。




(追記)
友人の友人、「心理描写・ドラマがない」発言者当人から回答がきました。
「ゼーガは「悲」なら「悲」、「喜」なら「喜」を表すような画面、すなわち視覚的表現が少ないから読み取れない」


なるほどなるほど。
確かに上記のカットひとつひとつ抜き出してみてしまえば、なんの感情を表現しているのかまるでわからない。
文脈・演技・BGMでの演出比が高いのか。




余談。
以下ADPネタバレ注意。反転で。

そして、だからこそADPはTV版のカットを多数流用しつつもまったく正反対の文脈のなかに置けたのだろうなあ。

あとADPでは舞浜サーバー移設をキョウが知っていた理由は「偶然。シズノが乗るゼーガのガンナーなので仕方なく、流れで」程度でしたね!!!
ていうかここで書いたシマから過去キョウへの信頼まったくなかったことにされましたね。
まあ、TV版とADPの間に無視しがたい設定齟齬が存在する以上、TV版の過去のキョウはADPの彼ではないと思っていい。
スタッフはわかっていて捨てたんだろう。