青い月のためいき

百合とかBLとか非異性愛とかジェンダーとか社会を考えるオタク

『月刊少女野崎くん』元ネタをリスペクトするということ

月刊少女野崎くん』が好きだ。

ギャグがめちゃくちゃ面白いし、キャラもみんな魅力的だし、絵も見やすくて、テンポがいい。
アニメも再構成や繋ぎが抜群に上手くて、千代ちゃん役の小澤亜李さんなんか最高すぎて一気に色んなアニメで名前を見るようになった。

非の打ちどころがない『野崎くん』だけど、私が何より好きなのは何かを馬鹿にしないところ。
特に私は「ホモネタ」に敏感で同性愛蔑視表現を見るとげんなりと消耗してしまうのだが『野崎くん』の同性愛ネタはぎりぎり蔑視までいかない、「同性を好きになるなんておかしい!」みたいな発言がない。
だから無駄に疲れずに笑うことができる。


少女漫画、これも馬鹿にされやすいもののひとつである。
「最近の少女漫画wwwwwww」とか聞き飽きたうるせえ。



『野崎くん』のネタには少女漫画にありがちな要素を過剰に戯画化したネタが散りばめられているが、少女漫画蔑視に呆れ疲れている私でも不思議と全然気にならない。

なぜかというと、本作の「少女漫画」の扱い方は非常にバランスがいいからだ。

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(『月刊少女野崎くん』2巻p64)

少女漫画は恋愛ばかりしている。
よくあるツッコミである。
少女漫画と一口に言っても多様なのでそれも偏見ではあるのだが、『野崎くん』は戯画化する。
作者が元々少女漫画家であるというのもひとつポイントであって、こういうネタでも受け入れやすい。

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(『月刊少女野崎くん』1巻p47)

少女漫画は描き分けが下手。
これも戯画化。
しばしば少女漫画の欠点として捉えられる要素を自覚的にメタる。
ここまでであったら数ある侮蔑表現と同じ不快感をもたらしただろう。
しかし『野崎くん』のカリカチュアはメタを超える。

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(『月刊少女野崎くん』1巻p28)

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(『月刊少女野崎くん』4巻p76)

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(『月刊少女野崎くん』4巻p121)

戯画化の末に現実の少女漫画を離れてちょっとやりすぎなネタに変貌を遂げるのだ。
こうして野崎が先回りしてひどいことをするので、空気が抜ける。
時に少女漫画に限らない漫画あるあるネタも紛れ込ませる。



何より少女漫画へのリスペクトを忘れないのだ。

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(『月刊少女野崎くん』1巻p13)

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(『月刊少女野崎くん』第77号)

少女漫画の人の心を動かす技術に感嘆する。
典型的な「男」からの少女漫画へのツッコミをメタ的に描いたあと気づいたら馬鹿にするどころかハマりこむ描写でオチをつくる。

こういった描写はただ少女漫画を馬鹿にしている性根からは絶対出てこない。
なんだかんだ言っても少女漫画を愛している。
少女漫画の魅力を知っているからだ。
それと、少女漫画で偉大な名作と呼ばれるものは数多くあるわけだがそういう壮大な作品を褒め称え学園恋愛ものを貶める差別も『野崎くん』は絶対しない、あくまで一番貶められやすい学園恋愛ものを見つめリスペクトしているのだ。





そんな『野崎くん』、原作から少女漫画を馬鹿にしない姿勢を貫いているのですが、アニメでさらに感嘆したのがこの、都ゆかりさんの漫画として提示されたこのカット。

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(『月刊少女野崎くん』アニメ5話)

よ、吉住渉だーー!
キャプチャー技術が低いせいで粗いがこの絵柄は確かに『ウルトラマニアック』らへんの時期の吉住渉に寄せている……。

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(『ウルトラマニアック』1巻p83)

吉住渉と言ったら少女漫画系ラブコメを基調にした恋愛ものからファンタジーから男の娘コメディからミステリーまでポップなタッチながら作風の幅が広い少女漫画家。
ブコメ要素ありの『野崎くん』でネタの引き出しが多いらしい都ゆかりさんのキャラクター性にぴったりの絵柄だ。

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(『月刊少女野崎くん』アニメ5話)

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(『月刊少女野崎くん』アニメ5話)

ちなみに原作だと特に吉住渉絵が意識されているわけではないので、完全にアニメスタッフの遊び心である。

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(原作1巻p100)

手袋を投げるシーンはベルばらあたりからかな?

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(『月刊少女野崎くん』アニメ6話)

ちょっとしたオマージュに「わかってるな」とニヤニヤできるのはそれだけで楽しいけれど、少女漫画オマージュでこういうネタを拝める嬉しさは格別だ。
普遍的な名作ベルばらはともかく吉住渉をチョイスするあたり20代~30代女性を狙い撃ちにきてるのが最高ですありがとう。
監督も少女漫画原作で実績を積んできてた方だし、少女漫画と女性ファンの扱いを理解しているのかもしれない。

メインストリームじゃないからと軽んじられるのはもう疲れた、私は少女漫画を愛してきたしこれからも愛していく。少女漫画へのリスペクトを忘れない『野崎くん』はそんな私を肯定してくれるのだ。