青い月のためいき

百合とかBLとか非異性愛とかジェンダーとか社会を考えるオタク

商業BLにおけるセクシャルマイノリティの表現について

引用部分色つき太字。
今記事は『アイツの大本命』7巻のネタバレを含みます。


結構前からやってみたかったことをやっと決行。
私は意識してBL読み始めてからまだ2年ほどなんだけど、セクシャリティ的に気になる表現によく出会う。
読者を萌えさせることが一番の目的でしょうに、萎えることもしばしばです。
なので日頃BL読んでて気になった不満やらを発散したいなと。
もちろん不満だけでなく「素晴らしい!」って思ったこともあるんで紹介するよ。

そしてふたつ注意を。
これから書くことは、単に「私が」気になったことであって、セクシャルマイノリティ全体を代表する言葉ではないこと。
マイノリティだろうがマジョリティだろうが一人一人考え方捉え方全然違います。
それから、表現に批判はしても、作者・作品そのものを否定する記事ではないこと。
偏見の言葉の背景には、その偏見を刷り込んだ社会事情があり、作品表現は意識的にせよ無意識的にせよ社会を反映した結果だと私は考えているからです。
大好きな作品でも差別表現に出くわすことはあるってだけ。

以上を踏まえてどうぞ。


(※追記)

これは2014年当時わりと気楽に一読者としての意見を書いた記事だったんですが「セクシャルマイノリティー 表現」でぐぐると1ページ目に(旧ブログが)表示されることに気がつきちょっと焦りました。
責任を感じてしまう……。念を押すけど単なる一読者の意見です。
そして当時とは考え方も変わったのでこちらのほうを編集してupしなおしますね。
旧ブログのほうと比較してみると「いかに各々の意見が多様であるか、一個人であってさえ思想が移ろいうるものであるか、繊細で微妙な問題であるか」が見てとれるんじゃないかと思います。


一応本記事で想定した読者は「セクシャルマイノリティーについてあまり詳しくないけど興味はあるBL読み」であり、そして実際のところ読んでくださる方は恐らく「私と同じような問題意識を持ったBL読み」であると思うんですが。
もしも今読んでくださっているあなたがBL創作者で、表現について知ろうと検索した結果ここに辿り着いたのなら。
本記事とあわせてこちらのページに目を通してみてください。

「どこかの同性愛コミュニティから『ノーマルは差別的だ』っていう意見が出てきてるわけじゃなく」? デマを流さないでくださいよid:kyoumoeさん。 - みやきち日記
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/touch/20150208/p1
牧村朝子|第47回 「同性愛者」という言葉が差別用語になる日は来るのか?|LGBTのためのコミュニティサイト「2CHOPO」
http://www.2chopo.com/article/detail?id=760
「ホモ」という言葉に腐女子はどう向き合うか?|女と結婚した女だけど質問ある?|牧村朝子|cakes(ケイクス)
https://cakes.mu/posts/7677

特に一番下のcakesのページは有料ですが、知ろうとしている以上、金を払う価値はあると思います。

ついでに商業作家さんであるならご存じでしょうけどこちらも必見。

「境界のないセカイ」マンガボックス連載終了のお知らせ: 幾屋大黒堂Web支店 @SakuraBlog
http://ikuya.sblo.jp/s/article/115089330.html
講談社LGBT関係の漫画を描くのって実際どうなのという話 - 庄司創のブログ
http://d.hatena.ne.jp/hajime_shoji/touch/20160525/1464135285



さて前置きが長くなりましたが内容は以下です。







まず、「ホモ」。とりあえず差別用語ですね。
まあ「ホモ」だろうと「ゲイ」だろうと文脈によって快不快全然変わってくるから、普段は気にしない。

「乙女系↑」
「そしてホモ」
(『刺青の男』阿仁谷ユイジ p13)
『刺青の男』 p13
しかしこの、コマ外の作者コメント「そしてホモ」。いらなくね、このコメントいらなくね。
異性愛者のキャラ出して「そしてヘテロ」なんて言ってもなんも面白くないでしょ。
男が乙女でホモだから面白いって思って書いたんでしょ。腹立つ。


次、「性的嗜好」。

「もうその年にはマスターベーションをする時にはっきりと自分の性的な嗜好が少数派に属する事は分かっていて」
(『1限めはやる気の民法』2巻よしながふみ p185)
『1限めはやる気の民法』2巻p185
これについてはもう様々な意見がある。
「同性愛は趣味じゃない、性的指向だ」
「それは他の性的嗜好差別だ」
「他と一緒にしてしまうと同性愛の問題がわかりにくく解決しにくくなるから政治的に分けてるだけ」
とか本当様々。
"性的指向/嗜好"は区別されるべきなのか
指向と嗜好、同性愛に"原因"は必要か。

私自身は、「異性愛性的嗜好と認識される社会だったら嗜好と言える」派。
とはいえ正式な論文やLGBTについて述べた文書とかで無批判に採用されてなければちょっと目に留まる程度なんだけど。

「ノーマルに生きてきた人間が男の体をどこまで相手にするつもりでいたのか」(『彼のバラ色の人生』秀良子 p67)
『彼のバラ色の人生』p67
単語だけで問答無用に不快になるのは「ノーマル」くらいですね、私は。
異性愛者だけが正常で、同性愛者をアブノーマル、異常者と認識し、排除する言葉。
「ノマカプ」とか「NL」とかも嫌い。
だから「ヘテロ」を使ってくれる作家さんはそれだけで好きになるのよね。

「個人の性癖は自由でしょう」(『捨てていってくれ』高遠琉加 p21)
これも「性的嗜好」同様異性愛者もまとめて「性癖」と呼んでくれるなら私は別に良いんですけど、言葉だけでも不快になる人はいるね。

「さすがに健全に彼女を持つ荘一に、同性を好きになるような要素がこれっぽっちもないことは、侑央もよくわかっているのだろう」(『いとし、いとしという心2』かわい有美子 p18)
「健全に彼女を持つ」。異性と交際したら健全。同性とは不健全。「ちゃんと」とか「正しい」とか色々派生するね。
そして戸籍上の異性と付き合ったらそれだけで「異性愛者」と断定される異性愛至上主義。

次。BLでなくともあっちこっちで見かける表現、第一位。(いや今までのもBLに限らず見かけるけどね)
『SUPER LOVERS』6巻p36-37
(『SUPER LOVERSあべ美幸 6巻p36,p37)
ニューハーフを記号的に示すこの手の甲を頬に当てるポーズ。
状況的にここでこのポーズ取ってるのは不自然すぎる!
ええ、ええ、記号的にわかりやすいから描いちゃったんだよね! それってステロタイプの助長だよね!
そして女装してる人に対して左のドン引き反応な。

対して下のような描き方はすっごい好き!

「矢野さんはコッチの方ですか?」
「は? いやどっちかっつーとこっちだな」
(『東京心中(上)』トウテムポール p64)
『東京心中(上)』p64
本人にいきなりそういうこと聞いて礼を失してんのにサラッとかわせるかっこよさ。
現実でもこういう切り返ししてるMtFの方の話とか聞いたことあるし、すごい素敵な社会反映だ。

そもそも「ソッチ」「コッチ」って本当にどこだよって話よね。
どうして切り分けてしまうのか。なんて、私だって分けたい時あるけど。
そんでヘテロ主義の世界で生きてると、キャラ設定に詰めの甘さを見せてしまうんです。

「――岡田さんてそっちのシュミあんの?」(『嵐のあと』日高ショーコ p88)
『嵐のあと』p88

この人はゲイ自認。……「そっち」???
この人はどこにいるつもりなんだろう。ゲイ自認のキャラなのに「そっち」側にいる自覚のない人なんだろうか。コモンセンス的に「そっち」が主流だから使ってるんだろうか。
そういう解釈もできるけど、ここは作者の意識問題じゃないかと思われますね。詰めの甘さ。
あと「シュミ」な。
これも「性的嗜好」「性癖」同様、異性愛もそう言ってくれたらいいなって思うんだけど。

「なにあれおもしれー ちゅーすんじゃね?」
「写メってツイッターに流しちまえ BLだBL」
(『部活の後輩に迫られています』腰乃 p137)
『部活の後輩に迫られています』p137

これ、超こわい。
なんで男二人が絡んでるだけで赤の他人に面白がられTwitterに流されなきゃいけないんだろう。
実際に男体同士が手を繋いでる盗撮写真を面白がって流してる人とかを思い出してしまうと本当にこわい。
でもこれがギャグ表現となってしまえる世の中なんですよね。
同性カップルも街に溶け込めばいいのになー、とは、思うだけ思うけども……。(もちろん公序良俗乱すのはいかんと思いますよ。言わなくてもいいことなんだけどこれ)

「みいくんが、本当に好きな子なら男でもしていいってゆってた」
「悪影響!」
「さっき理解ある風だったじゃん…」
「別っしょ」
(『いとしの猫っ毛』雲田はるこ 2巻p132)
『いとしの猫っ毛』2巻p132
弟カップルに影響されて、息子が男とキスしたのを怒る姉。
これあるあるなんだろうなー。
「他人はどうでもいいけど自分の子供が同性愛者なのは無理」って人。
「悪」影響、なのよね。そういう人にとっては。
描かれ方としてはギャグっぽい感じだけど深刻だよこれ。

「おとうさまが心配なんだったら私にかまってないでベッドのそばにいればいい
 あなたにはできるんだから 息子さん」
(『KOH-BOKU』未散ソノオ p135)
『KOH-BOKU』p135

こういうのは精神的にクる……。
今の日本じゃ戸籍上同性カップルが家族になれない以上、パートナーが倒れても病室に入れない場合がある。病院側から連絡がくることもない。
正式な家族が見舞いに来てる時、その家族に交際を隠してたり理解が得られてなかったりすると近づくこともできない。
こういう描写、百合じゃ絶対まだできない。今のBLだからこそ。


次ふたつは、同性愛/トランスジェンダー以外のセクシャルマイノリティ表現について。

「だってコイツ女の趣味悪いぜ? あの女二股かけてるだろ!?」
「正確には三股 別にいいんだって お互い知ってるし」
「お前サイテー!!」
(SUPER LOVERSあべ美幸 2巻p52)
『SUPER LOVERS』2巻p52

ポリガミーっていうセクシャリティがある。
複数の人とパートナー関係を結ぶライフスタイルを望む人。
一人だけと契約するモノガミーがマジョリティだからポリガミーは非難されがち。
合意の上なのにね。
しかし三人と付き合ってんのは相手の方なのに何でこっちがサイテー呼ばわりされてんのかはまじで疑問。

「間違いない 勢多川は健タンにマジだ」
「!!」
「――ッ どうして大柴なんか…っ!
 恋愛の観念すら持たない相手に!」
「ムリだって届かなくたって 恋は恋なんだよ」
「祈ろうぜ
 せめて健タンが全うに恋愛できる人間に成長することをさ…」
(『ひとりじめボーイフレンド』ありいめめこ p154)
『ひとりじめボーイフレンド』p154

キャラの男友達が集まってる場面。
これ、すっごく惜しい。
男同士だってことをスルーされるとこはすばらしいだいすき。
リアルな描写じゃないって批判も時々起こるけど、私はこういうリアルを望んでるのよ!

しかし「全う(真っ当?)に恋愛できる人間に成長する」って……。
恋愛って、人間的成長過程のうちに盛り込まれちゃってるんだよね。
恋愛至上主義。恋愛する人が「健全」。しなけりゃ異端。


さてやっと最後です。
散々愚痴ったけど、素晴らしいと思った描写でしめます。

「あんたが佐藤くんとつき合ってるからって…
 煮たり焼いたり殺したり陰惨にイジメたりするわけないでしょー!!」
「佐藤くんに美人の彼女がいるって噂があっても…
 あたし達変わらず公明正大に戦い続けてきたわ!!」
「だから吉田!!
 これからだってあたし達…正々堂々とあんたと勝負するわよー!!!」
(『アイツの大本命』田中鈴木 7巻p163)
『アイツの大本命』7巻p163

男だからって諦めるでもナメるでも虐めるでもない。
これこそ「男も女も関係ない」!!
いやー、感服ですね。ほんとこういう作品に出会えると気持ちいい。
もっとBLでこういう快適な気分を味わいたい!




……っていう願望を込めた記事でした。
最後に繰り返すけどここで書いたことは単なる私個人の感想です(差別表現は紛れもなく差別表現だけど受け入れられる範囲は個々人によって全く違います)
セクシャリティジェンダーに関心のある人全てが同じ感想を持つってことは、100%ありえない。

それだけ残して終わります。それでは〜。