新居昭乃 5つの曲の繋がり 考察
普段は曲を聴いててもあまり歌詞を気にしないというか、わかりやすいテーマやフレーズだけ汲み取ってる。
なんだけど、先日、昭乃さんの歌詞で発見したことがあるのでちょっと興奮している
美しい星 (懐かしい未来/1987)
アトムの光 (そらの庭/1997)
灰色の雨 (Red Planet/2012)
Our Children's Rain Song (Red Planet/2012)
Sophia〜白の惑星 (Blue Planet/2012)
これら5曲を見てみると、どれも戦争を題材にしていると思われる。
昭乃さんにとって戦争は大きな関心事みたい。
そしてそれは、昭乃さんのほとんどの曲にまとう「悲痛で優しい」雰囲気と親和性の高いテーマでもある。
戦争を題材にしたらしい作品は他にもあるけど、この5曲に共通するものといえば、『青空を見たいというひとつの願い』。
青空だけは残しておいてくださいと叫びたい
(美しい星)
「美しい星」は戦争直前。
何もかもを失くしても、どうか青空だけはという願い。
見てアトムの光 痛いくらい青い空もささやかな夢さえも燃えてしまう
(アトムの光)
「アトムの光」はたった今原爆を落とされた朝。まんまタイトルのとおり。
そんな願いも、今きのこ雲に覆われ叶わないものとなってしまった。
静かな灰色の夕暮れ 気づかぬふりで急ぐ街と
ただ雨を頬に感じた
(灰色の雨)
「灰色の雨」「Our Children's Rain Song」はその当日の夕方から夜にかけて。
その雲から降ってきた灰色の雨。
願いはもろく砕けた
(Sophia~白の惑星)
「Sophia~白の惑星」はそれから大分時が経った頃。
願いが砕けたまま雨は雪に変わり、未だ止むことはない。
どうかどうかと縋るように願う「美しい星」。
なのになんとも救いようがない結末の「アトムの光」。
昭乃さんの作品を「悲痛」と称したのはそんな世界を歌っているから。
(やさしさ部分は今説明できることじゃないので割愛)
今までの昭乃さんはその悲痛さだけを表現していた。アトムの光は、1997年の作品。
それから10数年。
「新居昭乃は変化してきた」と噂されるようになった。
「内向していたエネルギーを外へ向けるようになった」、と。
そんな変化が、ここにも見て取れるのよ。
2012年、対で発表した「Red Planet」「Blue Planet」のアルバムに。
skies,so beautiful
(Our Children's Rain Song)
ライブでのイメージ映像では、この曲は全部灰色の画像。
最初は「Grayish Rain」というタイトルだったし。「灰色の雨」とセットの曲。
skies,so beautifulと歌っても映像は灰色。
灰色の空は、まだ晴れない。けれど、ただあるがまま美しい。
存在しない未来
退廃を秘めた心
始まりはどこに
新しい夜明けを迎えるために
(灰色の雨)
降り続く「灰色の雨」。空は遠く、存在しない未来の展望。
しかしどうにか手探りで新しい夜明けを、求める。
どうしたらこの絶望から這い出せる?
過去から見てた未来は壊れたの?
奪い合うその心にいつか春の日は射すのかな
風に問いかけるよ
(Sophia~白の惑星)
そして、「Sophia~白の惑星」でひとつの答えを見つける。
白の惑星となるほど地球は雪で覆われ、まだ春は来ない。=戦争は終わらない。
青空だけはというささやかな夢は無情にも叶えられない。
願いはもろく砕けた それでも
(Sophia~白の惑星)
でも。
地球はまだ回り続ける
夢を見る人がただ一人でもいる限り
(Sophia~白の惑星)
世界はまだこんなにも美しく輝くよ
(Sophia~白の惑星)
生まれる命を迎えてくれていた青空がなくなっても、人が争っても、地球は回るし、花は咲くし、鳥は飛ぶし、世界は輝ける。
そこに見えるのは、力強い希望。
今までは運命の残酷さに打ちひしがれるのみだったのに、そんな中で世界の美しさに気づき、そして、ここからやっと自分で立ち上がろうとする。
明かりを手に抱いて空にかざそう
白一面の街をあたためあう星を飾ろう
(Sophia~白の惑星)
これが答えだ。
青空は見えない。争いはなくならない。
ならば自分の手で、少しでもひとつでも世界を飾るために青空の代わりを、希望になるものを。
そういったものの象徴として、星を挙げた。
「Blue Planet」のライナーノーツによると、この曲は昭乃さんの今の気持ちを一番表す歌なのだそうだ。
昭乃さんは希望を掲げるようになった。
5つの曲を通して。
……というようなことを、こないだ昭乃さんに会ったので訊ねてみたら、「へ~」って言われた笑
「作ったときは気づかなかったことが、あとになってわかることがあるんだよね」とも。
解釈は聴き手に委ねると言って下さったので、私のひとつの解釈としてここに書いとこう。