青い月のためいき

百合とかBLとか非異性愛とかジェンダーとか社会を考えるオタク

小花美穂『窓ぎわうしろから4番目』設定をこねくり回す

小花美穂は本当ね、「調理が上手い作家」だと思う。

材料の良さを如何に引き出して如何に自然で面白い展開をさせた作品をつくるか。

そしてその長所を集約したのがこの初期短編50ページ『窓ぎわうしろから4番目』。




窓ぎわ一番うしろの席のあゆ子。うしろから4番目の無愛想な石打くん。

この平凡な設定を小花美穂は話の展開に生かしてみせる。

席が前後じゃだめなのだ。ほどよい遠さが必要なのだ。

一番うしろのあゆ子はいつもプリントの回収役。

――うしろから4番目の「石打くん」が

いつもプリント取りやすい所においてくれることや

けっこう授業サボるくせにいつも豆テストが満点なことは

…きっと私しか知らないと思う

……何このひそやかさ!

早速設定を取り入れた冒頭のこのモノローグだけであゆ子の淡い恋心と二人の距離を示す。


そんで石打くんのプリントに「スキー課外不参加」と書いてあればあゆ子もサボって三日間教室にふたりきり

普通ならありえない状況を、設定を活用することですんごい自然に作り出す。



ところで石打くんには弟がいて、その弟に彼女がいる。

その人は石打くんの元カノでもある。

そんな三人の関係の裏にある背景を作中で解き明かしていくことで味わいが生まれるんだけど、ここでも設定活用。


石打くん

「外野がよけいな詮索すんじゃねーよ」

あゆ子

「…もう外野じゃやなの!

石打くんのこと見てたんだもんこの席からずっとこっそりと!!

ごらんよこの設定を生かしてぶっ飛んだ告白!




そうしてなんやかんやが判明し、そこにはいかにも小花美穂らしい余情の残る事情と展開の織り成す切ない空気が漂うのだけど、この記事のテーマ的に割愛。


その後、石打くん語る。

…でもあんた手はキレイだよな…

マメテストとかプリント集める時あるだろ

…最初マネキンの手かと思ってびびった

そういえばあゆ子が火傷して手に包帯巻いたとき、プリントを回収するあゆ子に珍しく話しかけて「…お大事に」とか言ってたなこいつ。

顔を赤らめ手だけでいいから付き合わない?と売り込むあゆ子。笑

手だけで何ができる…と言われ「指ずもう。」



ときたもんで、その後一山を越しまとめにかかり、二人で指ずもうをしながら泣いて告白するラストシーンの空気感がなんだかイイナと思うんです。


限りなくいとおしい

『窓ぎわうしろから4番目』/『猫の島』小花美穂 p131

最後に、

「じゃあつめろー

いっつもうしろのヤツだからー

今日はうしろから2番目のヤツあつめろぉー

をオチにしつつ、

――窓ぎわうしろから4番目の彼の

ふりむく笑顔を手に入れた

ほら! 前後席じゃないから会話ができないけど確実に近づいた距離!

そのほどよい遠さが関係性を表している。

些細な設定をタイトルにしてこれでもかとこねくり回すの。

たったの50ページなのに七箇所も見当たるのよ。それでもしつこさを感じない、しっくりくる。

そうすることで独自性が生まれるのね。




空気感も、やるせなさも、自然も自然な話運びの仕方も、あゆ子のキャラも、好きだ。

「自分がなぜこの作品を面白いと思うか」分析をしたいな〜という願望パート1記事。